環境アセスメント学会制度研究部会第12回定例会議事概要
1.日時:平成19年12月11日(火)19:00~
2.場所:環境省第1会議室(中央合同庁舎5号館、22階)
3.テーマ:生活環境分野におけるアセスメントの技術的支援のあり方
4.話題提供者:中央大学理工学部教授 鹿島 茂 氏
5.参加者:33名
6.概要
主に、不確実性、事後評価、正の効果の評価という3点について、話題提供者より報告が行われ、意見交換が行われた。
■不確実性について/「リスク」概念の一般化
・現状把握のための測定誤差という意味での不確実性は回避可能であり、予測に不確実性があるということだが、そもそも現象そのものが常に変動しており構造変化があるということを認識しなければならない。
・例えば、現象→観測→調査時点の現象データ→モデル作成→予測の実施、という各段階それぞれにおいて誤差や変動は生じるもの。
・リスク(R)は、発生確率(P)×影響の重大さ(I)で現されるものであるが、発生確率が低く影響も軽微であればある程度見逃されるもの。人為的なものだと過失として責任が問われ、自然現象によるものだと天災として許されるという傾向があるが、人為と自然は明確に切り分けられるものではない。
・予測が違った場合について、責任が発生するのか、現実的にどう対処すべきなのかといったことについてまだ十分な議論がなされていない。
・予測の誤差の発生確率はずっと変わっておらず、深刻な課題である。
■事後評価の実施について
・今までアセスにおいてやってきたことをふりかえること、またなぜ今それが必要なのかについて考えることが求められている。
・効率化、客観性の向上、重要性の説明の必要性、が大事なポイントである。
・より効率的に行っていくためには、予測・保全措置が有効に機能したものをレビューして、調査結果や保全策をデータベース化していくことが重要。
・より信頼性を高めるには、予測手法の事前・事後の比較をすること。
・より有効性を高めるには、未然防止による改善費用の削減が重要。
・より実効性を高めて行くには、今後注目されるCO2評価の確率や都市計画との連携などが重要。
・アセスの調査結果はその都度、案件ごとに捨ててしまっている現状があり、もったいない。
・手法の改善としては、同じモデルを違う場所で適用してみる等により、一般化・普遍化していくことができるのではと考えている。
・改善効果の推計としては、影響の記述が定性的であり、決定内容の基準が不明確であること、事業のすべての費用と便益を対象としていないことなどが課題。
■正の効果の評価について
・再開発事業が増加したり、景観が加わってきたりしていることを考慮することが必要
・交通問題でいえば、これまでは利便性を最大限にするという目的のために、他の生じる影響(騒音や大気質など)を一定レベル以下にするということを行ってきたわけだが、今後もそれでよいのか。
・一つの分野にこだわらずに、複数の「もの」を組み合わせてみることが大事。たとえば複数の統計の組み合わせ、現象説明と最適化、社会生活と経済活動など。
・カーシェアリングを例にとると、「電気エネルギー利用」や「共同利用の仕組み」などが組み合わせられたものである。
・例えば道路の場合、環境も改善できるしアクセスビリティも向上できるということもあるのでは。
・色々な形でプラスの評価はとりうるものである。
7.質疑応答及び意見交換
様々な内容について活発に議論が行われた。概要は次のとおり。
○住民は、不確実性などを含めてどんな手法で調査・予測をやっているかということよりも、自分の関心のある要素や部分について調査・予測をちゃんとしようとしているかどうかに興味を持っていることが多いが、そのミスマッチについてはどう思うか?
・都市計画の分野を見てみると、1960~70年代ぐらいまでは、都市計画は合理性に満ちているという考え方があったが、その後は中身そのものより住民等との合意形成が重要というトレンドになった。そのように、合意さえできればよいという方向性に、アセスも向いていく可能性もあるかもしれないが、内容として「合理性のあるものである」ということはやはり一番大事なことではないか。再現性があって感度が妥当ということが、基本的に大切だと思う。
○事業をとめることにつながる研究は、事業者にとっても有用であるという考え方はあるか?
・アセスの調査等を実際に行う人と、事業者とのコミュニケーション不足が目立っているように感じる。計画を変更するということはもっと評価されてもよい。そのような評価がないと、政治的に時の運で動くことばかりになってしまうおそれがある。
○アセスでつかむべき時間・空間の感覚と、予測でつかもうとするもののスケールが合っていないことが多いと感じるが、モデル化でその差を丸めることになるがその方法の取り方でかなり違いが生じてくるのではないか。
・方法書が出たときに、その手法について不確実性などを含めて、審査会などで十分に議論する時間が取られていないので問題ではないかと思っている。手法ごとのメリット
・デメリットを理解した上で次のステップに進むべきところが十分ではないという危惧がある。
・しかし、政策評価としては考え方の割り切りも必要となる。交通予測に関して言えば、調査を実施するコンサルごとに手法にこだわりがある傾向で、共通化がしにくいのではないかと感じている。
○発電所の場合などは、温排水の拡散範囲の予測はできるだけ広い範囲を把握するという目的があるため、より精密にせばめた範囲を割り出すという方向にはおそらくいかないと考えられる。
○手法等のマニュアルが作られてきていることで、汎用化・前例主義になっている感じは持っている。メリハリ付けという考え方をうまく利用してしまっているような感じもある。もう一度予測の手法の検討を見直してみることも必要かもしれない。質をきちんと担保する、CO2についても基準を示していくこと等が今後重要では。
○サイエンスとしての研究と、政策評価の考え方は、実務として使っていくという意味で、分けていってもよいのではと思っている。
○安全率を見込んだ扱い方は、アセスではあまりないのか。
・個人的には、安全率に逃げる考え方はよくないと認識している。今の解析技術の話は、確定変数で考えており、確率変数で考えていないところが問題と考えている。
○事業者は、精密な数字こそが信頼性を持つという考え方になっており、住民の側もそのような考え方にとらわれている傾向があるか?
・合理性という考え方からすれば、やはり数字の信頼性というのは大事な点ではある。
社会的な合意形成などの役割からアプローチすれば、精度はほどほどでもあとは関係者が納得できればよいという考え方もある。
以上