環境基本計画の改訂と環境アセスメント
著作者(文責):福岡大学 浅野 直人
著作期日:2006.04.03
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4月7日に国の第3次環境基本計画が閣議決定されました。新たな環境基本計画は、これから5年間の我が国の環境政策の方向を施策の大綱を示すもので、重要な意義をもつものということができます。今回の環境基本計画は、サブタイトルが「環境から拓く 新たなゆたかさへの道」とされていることに示されているように、先に出された「環境と経済の好循環ビジョン」の考え方を基礎としつつ、環境保全の向上と経済的側面、社会的側面の統合的向上を図るという大きなテーマを掲げています。そして計画では、2050年を見据えた超長期ビジョンの策定を提示し、可能な限り定量的な目標・指標による進行管理を行う、としている点が大きな目玉ということができます。そして第2次計画で登場した「持続可能な社会」をめざすという方向を一層鮮明にし、持続可能な社会とはどのような社会であるか、を明らかにしようとしています。
ところで、環境基本計画は、これまで「循環」「共生」「参加」「国際的取組」という4つのキーワードであらわされる長期的目標を掲げてきました。今回の計画もこの4つのキーワードを維持しつつ、その内容をより詳しく提示しようとしていて、7つの文章が並べられています。そのうち「参加」に関連することとして、今回新たに「国民が環境保全のために行動できるとともに、環境に影響を与える行政機関などの意思決定に適切に参加できること」という文章が掲げられました。むろん、この前提として、「世代間、地域間、主体間で健全で環境の恵み豊かな持続可能な社会を作るための負担が公平かつ公正に分かち合われること」という目標があり、これをうけて、上記の文章が掲げられていることを見落としてはいけません。しかし、それにしても、我が国に環境アセスメント制度を導入するために、先輩たちが大いに苦労をされた1980年代の旧環境影響評価法案の審議の当時の状況を思い出すときには、このような、目標が閣議決定文書に当然のように取り入れられることができる時代になったのだと改めて思わされることでした。
第三次環境基本計画では、これまでの戦略的プログラムに代えて「重点分野政策プログラム」がおかれていますが、その9番目に「長期的な視野を持った科学技術、環境情報、政策手法等の基盤の整備」が挙げられ、そのうちに、「戦略的環境アセスメント・環境影響評価などの行政施策における環境配慮のための手法の確立・推進」が重点的取組事項として掲げられました。この学会にとっても関係が深いと思われる第3次環境基本計画125-6頁のこの部分の記述を以下にご紹介いたします。
第2部第1章第9節第3項 行政施策における環境配慮のための手法の確立・推進
4.重点的取組事項
(1)戦略的環境アセスメント
上位計画や政策の決定における環境配慮のための仕組みである戦略的環境アセスメントについては、近年、欧州各国や開発途上国においてその推進が図られており、我が国でも、環境影響評価法において港湾計画に係る環境影響評価が定められています。欧州連合等の加盟国や一部の地方公共団体においては上位計画が及ぼす環境影響の配慮に関する、評価書等の作成や環境部局と関係機関との協議等が制度化されていること等から、それらの進展状況や実施例を参考にし、国や地方公共団体における取組の有効性、実効性の十分な検証を行いつつ、我が国における計画の特性や計画決定プロセス等の事態に即した戦略的環境アセスメントに関する共通的なガイドラインの作成を図ります。
これらの取組を踏まえ、欧州等諸外国における戦略的環境アセスメントに関する法令上の措置等も参考にしながら、上位計画の決定に当たっての戦略的環境アセスメントの制度化に向けての取組を進めます。さらに政策の決定に当たっての戦略的環境アセスメントに関する検討を進めます。
また、諸外国や地方公共団体の取組状況や実施例に関する情報の収集・提供、地方公共団体の取組に対する技術的支援等を推進します。
(2)環境影響評価
環境影響評価法に基づく方法書手続や環境保全対策についての複数案の比較検討等を通じて、開発行為への環境配慮の統合をより一層進めるとともに、改正後の基本的事項や主務省令に基づき、事業の特性に応じた、より分かりやすい環境影響評価の実施に努めます。併せて、住民等の理解の促進のため、方法書等の閲覧や意見提出におけるITの活用や、より分かりやすい方法書等の作成の推進に努めます。また、調査・予測等に係る技術手法の開発を引き続き推進するとともに、調査等の手法、環境保全措置等様々な情報の整備・提供・普及、専門家の技術の向上を促すための措置を講じます。特にアジア地域における環境影響評価の実施能力向上(キャパシティ・デイベロップメント)や整合性確保のため、技術協力や情報交換を推進します。
環境影響評価法については、施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて、法の見直しを含め必要な措置を講じます。
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